2021年2月21日日曜日

家族法制の見直し

 家族法性の見直しが法制審議会で進められます。

上川陽子法相は10日、離婚した親の都合で、子の健全な成長が妨げられないよう、家族法制の見直しを法制審議会(会長・内田貴早稲田大特命教授)に諮問した。養育費不払いの解消策をはじめ、親と子の面会交流、親権制度、財産分与の在り方といった離婚後の課題を網羅的に検討する。

法務省の検討会議が昨年まとめた報告書では、母子世帯が離婚した父親から養育費を受け取っている割合は24%。養育費請求権の民法への明記や、離婚届と併せて支払いに関する取り決めを届け出る制度、不払い時に裁判手続きを取った場合の負担軽減や審理の迅速化などを提案しており、法制審でも論点となる見通し。」(2021年2月10日共同通信)

母子世帯のわずか24%しか、離婚した父親から養育費を受け取れていないのは問題です。

父親側の経済状況が苦しいとしても養育費はゼロにはならないはずです。

養育費の不払いの背景には、離婚後の子どもとの関わりの不足があるように思います。離婚をした後も、子どもと十分に関われていたら、たとえば面会交流ができていたら、養育費を払わないでもいいとは思いづらいのではないでしょうか。

離婚後も、経済的な面だけでなく、子どもの成育に両方の親が関われるようにすることが、全体として、子どもの福祉を守ることになるのではないかと思います。子どもの福祉を第一に考えた、バランスの取れた議論が求められます。

ヨーロッパでは、「親権」という親の権利としてではなく、「親責任」という親の子どもに対する責任として、離婚後の親子の法律関係は議論されます。

養育費はもちろん、面会交流についても、何が子どもにとって大切なのか、子どもの福祉を守るためには何が望ましいのかを、子どもの視点から考える法改正となってほしいです。



2020年7月8日水曜日

有責配偶者の離婚請求について・その3

有責配偶者からの離婚請求の3つの基準のうち、前回は「長期間の別居」についてご説明しました。
今回は、「未成熟子の不存在」についてお書きしたいと思います。

まず、未成年者ではなく、未成熟子となっている点に注意が必要です。

未成熟子とは、必ずしも自然年齢によって定まるものではありません。
経済的に独立していて生計が立てられる状態にあるかどうか、そのように社会から期待される年齢かという観点から判断されるといえます。

たとえば、大学生の場合、未成年者ではないかもしれませんが、未成熟子であると判断されることもあります。
一方で、潜在的に働くことはできるとして、否定した裁判例もあります。
統一的な基準はありませんが、経済的に自立する力を考えるので、例えば、社会人として働いた後に大学で学び直している子の場合には未成熟子とはいいがたいでしょう。

また、子に障害がある場合に、年齢的には成人していても、未成熟子に準じると判断した裁判例もあります。
障害の程度や介護の必要性などによって異なりますので、ケースバイケースの判断となります。

未成熟子がいる場合には、有責配偶者からの離婚請求は認められづらいとはいえます。
しかし、未成熟子がいても、有責配偶者からの離婚請求が認められる場合もあります最高裁平成6年2月8日など)。

未成熟子の存在は、離婚を認めない方向に働くファクターの一つになりますが、それで離婚の可否が決定づけられるとまではいえず、総合判断になります。







2020年6月24日水曜日

有責配偶者の離婚請求について・その2

有責配偶者からの離婚請求には3つの基準があることを前回お伝えしました。昭和62年の最高裁判例によるものですが最高裁昭和62年9月2日)、今でも用いられている基準です
今回は、3つの基準のうち、「長期間の別居」について検討します。

上述の最高裁判例は、別居の期間について、
ア 両当事者の年齢
イ 同居期間
を考えて、夫婦の別居期間がこれらとの対比において相当の長期間に及ぶかどうかを検討しました。

例えば、7年という別居期間があるとして、30年連れ添ってきた熟年の夫婦の場合には、7年の別居は長期とは認めづらい方向に傾くでしょう。一方、結婚して2年の若い夫婦の場合には、7年の別居は長期と認めやすい方向に傾くでしょう。

もちろん、長期間の別居以外の二つの基準(未成熟子の不存在、特段の事情の不存在(苛酷状況の不存在))もあわせて判断されますので、別居期間だけですべてが決まるわけではありません。

とはいえ、別居期間の長短が重視されるようになっているケースは多く、特に有責配偶者の離婚請求のケースにおいては別居期間はかなり重視されているように実務上は感じます。
離婚訴訟にまで発展して争われるケースでは別居期間が10年を超えているものが少なくありません。


この点、アメリカやヨーロッパ諸国では婚姻関係が破綻しているのか否かという実態面が重視される傾向にあります。
外国人の依頼者の方からは、日本の法律が、壊れた夫婦であっても長期間夫婦であることを強制しているのは理解できない、という意見を聞くことも多いです。
海外にはアリモニーといって(メンテナンスということも)、離婚後の元配偶者の生活費を一定期間扶養する制度があります。
日本にはない制度です。
離婚は破綻によって認めるけれども、離婚後にも経済的なサポートを一定期間認めるという考え方なのだろうと思います。










2020年6月12日金曜日

有責配偶者の離婚請求について

 夫婦の関係が壊れる原因を作った有責配偶者の方からの離婚請求が認められるのかは、実務上、しばしば争われます。
 昭和20年台の判決では、背徳行為を行った者の離婚請求を認めるのは道徳観念が許さないなどとされ、有責配偶者からの離婚請求は否定されていました。
 しかし、時代と共に、裁判所の判断も変化していきました。

 昭和62年の最高裁判決により、有責配偶者からの離婚請求が認められる3つの基準が示されました(最高裁昭和62年9月2日)。
 30年以上前の判例ですが、現在も用いられる判断の基準となっています。

 具体的には、
1 長期間の別居
2 未成熟子の不存在
3 特段の事情の不存在(苛酷状況の不存在)

の3つが基準とされています。

 この3つの基準は、全てを満たさないとならない要件というより、ケースバイケースで、3つの基準を総合的に判断をするようになっていると考えられます。

 

2020年6月3日水曜日

面会交流の事例検討(審判に対する抗告事件)その4

子供と離れて暮らす父親が、子供との面会交流を求めて面会交流の調停を申し立て、家庭裁判所で面会交流を認める審判を得ましたが、母親側が不服として抗告し、高等裁判所が決定をした事例(平成30年11月20日東京高等裁判所決定)の検討の4回目です。

1回目は、面会交流の重要性や意義
2回目は、頻度の時間についての判断
3回目は、立ち合いの可否や方法についての判断
を検討しました。
今回は、曜日や時間、引渡方法、代替日の決め方についての判断を検討します。

面会交流を具体的にどのような方法で実施するのかについては、その時々のスケジュール、子供の体調、天候など様々な事情を踏まえつつ、父と母が協議をして定める方法を取るのが、本来は、双方にとって、望ましいと言えます。

しかし、当事者間の対立が強ったり、不信感が強かったりする場合もあります。
そうしたケースでは、現実的に、当事者間で協議をすることが難しかったり、協議をしてもまとまらないことが起こりえます。

この裁判例でもそうした懸念に対する判断がなされました。
前記認定した過去の経緯や本件における抗告人の主張からすると、抗告人の相手方に対する不信感が強いことがうかがわれ、当事者間の協議により定めるべき事項について協議が調わないことが懸念されるから、面会交流の確実な実施のためには、面会交流の曜日や時間、引渡方法、代替日は、第1次的には当事者の協議によることとするが、協議が調わない場合についても定めておくこととする。」

つまり、第一次的には当事者の協議によるけれども、協議が調わない場合の方法も定めることとする、とされています。

具体的には、例えば、面会交流の時間については、
各回の面会交流時間 5時間とし、具体的な時間帯は当事者間の協議により定める。ただし、当事者間の協議が調わない場合は、午前10時から午後3時までとする。」
との判断がなされました。

協議が調わなかったために面会交流が実施できなくなるという結果を避けるため、協議が調わない場合の具体的な実施方法についても、第二次的に、定められています。

面会交流の重要性にかんがみて、できるだけ確実に面会交流が実施されるように、という考えが下地にあると言えるでしょう。






2020年5月28日木曜日

面会交流の事例検討(審判に対する抗告事件)その3

子供と離れて暮らす父親が、子供との面会交流を求めて面会交流の調停を申し立て、家庭裁判所で面会交流を認める審判を得ましたが、母親側が不服として抗告し、高等裁判所が決定をした事例(平成30年11月20日東京高等裁判所決定)の検討の3回目です。

今回は「立ち合い」が認められるかについての判断部分について検討します。

面会交流は普段は子供と離れて暮らす非監護親が子供と交流できる機会ですので、監護親の立ち合いを付けずに、いわゆる水入らずで実施されることが本来の形だと言えます。

しかし、父母の関係が悪く、特に、監護親が非監護親による連れ去りを心配している場合など、立ち合いをつけることを条件に面会交流が実施されているケースも少なくないかもしれません。

この裁判例でも、母親(抗告人)は連れ去りのおそれを主張し、立ち合いを求め、かつ、第三者機関による立ち合いがなされるべきだと主張しました。

この点、高等裁判所は、未成年者の年齢からすると,相手方と未成年者との面会交流を子の福祉に適うように実施していくためには,監護者である抗告人の協力が不可欠であるところ,抗告人は,相手方の対応に不信を抱き,面会交流を中断したり,平成30年1月18日以降は信頼関係が破壊されたなどとして,面会交流の実施を拒んだりしていることからすると,現段階においては,未成年者と相手方との面会交流が継続的に行われるようにすることが何より大切であり,そのためには,前述のとおり,抗告人が主張する相手方による未成年者の連れ去りの懸念についても十分な配慮をすることが必要である。」としました。

監護親が連れ去りの懸念を持っていることに対する配慮が必要だとしており、その理由は、面会交流が継続的に行われるようにすることが何よりも大切であるから、という判断です。

そして、監護親が抱く連れ去りの懸念への配慮として、それまでの面会交流の実施状況を踏まえ、当分の間は,抗告人の立会いの下で面会交流を実施することが相当であり,抗告人と相手方が,未成年者の父母として子の利益に十分に配慮して行動すべきことはいうまでもないところであり,このような態様による面会交流が子の福祉に反するものとはいえない。」として、立ち合いを認めました。

立ち合いを認めるものの、期間は「当分の間」であるとしています。

面会交流に対する抵抗感が強い監護親の協力を得ながら実施していくためには、当分の間は、立ち合いを認めつつも、継続的に実施できる環境を作ろうという考えのように思われます。
悩ましい判断だったことがうかがえます。

なお、第三者機関の利用については、「相手方が反対していることに加え,費用負担の問題が生じるところ,前記のとおり婚姻費用等の支払をめぐって面会交流が中断した経緯をも考慮すると,第三者機関の利用による面会交流は適切とはいえない。」とし、認めませんでした。





2020年5月25日月曜日

面会交流の事例検討(審判に対する抗告事件)その2

子供と離れて暮らす父親が、子供との面会交流を求めて面会交流の調停を申し立て、家庭裁判所で面会交流を認める審判を得ましたが、母親側が不服として抗告し、高等裁判所が決定をした事例(平成30年11月20日東京高等裁判所決定)の検討の2回目です。

前回は面会交流の意義や重要性についての判断部分を紹介しました。

面会交流が重要であるのは当然として、では、具体的に、当該ケースにおいて、どのように実施していくのかというところは、監護親と非監護親で意見が分かれることが多いものです。
この裁判例でも調停で折り合いがつかず、審判、抗告審へと進んでいます。

今回は、頻度や時間についての高等裁判所の判断部分を紹介します。

頻度:月に1回
時間:各回5時間
との判断がなされました。

このケースでは、それまで月に1回、2時間程度で(数回)実施されていました。

この点、抗告審は、「概ね月に1回、2時間程度の頻度で数回行われた面会交流において、対未成年者との関係において問題が見受けられず、良好に実施されたことからすると、月に1回の面会交流とするが、未成年者がより自由に相手方と面会できるよう、1回あたりの時間を長くすることが相当である。」
として、面会交流の実績にかんがみて、1回あたりの時間を長くすることが相当との判断なされました。

また、場所については、それまでは妻側の代理人弁護士の事務所での実施でしたが、
「面会交流の際に、未成年者が非監護親との交流を楽しみ、のびのびと過ごすためには、実施場所について限定することは相当ではない。」
と判断しました。

ケースによって事情は異なるでしょうし、また、月に1回5時間の交流が十分といえるかは議論があるところでしょう。
とはいえ、子供がより自由に面会できるように、交流を楽しみ、のびのびと過ごせるようにと、子供の利益を優先する考えが示されており、それが重要であることは確かです。