2020年4月30日木曜日

民法(債権法)が変わります その4・法定利率

2020年4月1日から改正された民法(債権法)が施行されています。
今回は法定利率の改正についてお書きします。

法定利率は、当事者間に合意がない場合に適用される利率で、民法で定められています。
例えば、交通事故などの不法行為の損害賠償債権の遅延損害金は法定利率によります。

改正前は、法定利率は年5%で固定されていました。

しかし、社会では極めて低い金利が続いており、年5%では高すぎるとの批判などがありました。

改正民法では、
法定利率は3%に引き下げられ、
3年ごとに1%刻みで改訂する変動制が導入されました(民法404条2項、3項、4項)。

3%への引き下げに加え、市中の金利動向に合わせて法定利率が自動的に変動する仕組みが新たに導入されました。

変動制を導入している国は多く、私が担当したある事件(カナダの州法が問題となるケース)では、3か月に1回、コートオーダーの金利が0.01%刻みで定められていました。

法定利率は、当事者間に利率についての合意がない場合に適用されますので、合意がある場合には、その合意が優先されます。

離婚の慰謝料などを調停や裁判上の和解で定める場合に、遅延損害金の利率について取り決めれば、その利率が適用されます。




2020年4月29日水曜日

民法(債権法が変わります) その3・約款

2020年4月1日から改正された民法(債権法)が施行されています。
今回は、約款を用いた取引についての改正をお書きします。

ネットサービスを利用しようとしたとき、「約款」に同意するかどうかの確認画面が出て、小さな文字で書かれた詳細な内容に戸惑ったことがある方、多いのではないでしょうか。

不特定多数の顧客を相手方として取引を行う場合、詳細な契約条項を「約款」として定めておき,約款に基づいて契約をするという方法が、広く用いられています。

画一的な条件で取引できることは、特にネットサービスの普及によって、社会が求めている変化ともいえるでしょう。

とはいえ、消費者の多くは約款の詳細な内容を認識していないのが実情のため、のちにトラブルとなるケースが多くありました。

そこで、改正民法では、約款がどのような時に有効で、どのような時に変更できるのかなどを明文で定めました。(ここでは概略をお伝えします。)

1 定型約款が契約の内容となる要件(みなし合意)

①当事者の間で定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたときや、
②定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ顧客に「表示」して取引を行ったときは、個別の条項について合意をしたものとみなされます(民法548条の2第1項)。

これらの場合は、客の側が、約款にどのような条項が含まれるのかを認識していなくても、合意をしたものとみなされるので、注意が必要です。

例えば、「同意する」ボタンを押して合意した場合などには、契約の内容とされるでしょう。

ただし、信義則に反して顧客の利益を一方的に害する不当な条項は、効果が認められません。

2 定型約款の変更の要件

現在の実務では、事業者が、既存の契約も含めて一方的に約款の内容を変更することがあります。改正民法は変更が可能とされるルールを定めました。

①変更が顧客の一般の利益に適合する場合や、
②変更が契約の目的に反せず、かつ、変更に係る諸事情に照らして合理的な場合
に限って、定型約款の変更が認められました(民法548条の4第1項)。

約款に「当社の都合で変更することがあります」と記載してあったとしても、内容に関わらず、一方的に変更できるわけではないことが分かります。

顧客にとって利益にならないような変更は、事前にネットなどで周知することが必要です。






2020年4月28日火曜日

民法(債権法)が変わります その2・保証人の保護

2020年4月1日から改正された民法(債権法)が施行されています。

今回は「保証人の保護を進めるための改正」についてお書きします。

保証人になったことで多額の債務を負うことになってしまった、というような話を耳にしたことがあると思います。保証人になるときには注意しなければ、と思っている方も多いでしょう。

しかし、実際には、会社が事業資金の借り入れをする場合、個人を保証人としてつけることを金融機関から求められることが多く、経営者の親族や友人が頼まれて保証人になっていることも少なくありません。
アパートを借りるときの保証人などもイメージしやすいかもしれません。

改正法は、個人が保証人になる場合の保証人の保護を進めるために、いくつかの改正をしました。


まず、極度額の定めのない個人の根保証契約は無効となりました。

根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務をまとめて保証する契約をいいますが、不特定の債務を保証することになるため、債務が膨らんでいきかねない契約です。

そうした根保証契約に極度額の定めがないと、保証人が予想もしなかった額を支払わなければならない事態にもなり(主債務者の不履行が続けば債務がどんどん膨らんでいくことも起こります)、保証人に極めて酷な結果となりえます。

そこで、個人の根保証契約の場合には極度額を定めなければ無効との改正がなされました。
保証人が支払いの責任を負う上限金額を定めることが必要とされ、責任に限定がなされました。


次に、公証人による保証意思確認の手続きが新設されたことも大きな改正点です。

個人が事業用融資の保証人になろうとする場合について,公証人による保証意思確認の手続が新設されました。

公証人の面前で、自ら保証意思があることを述べることが必要とされました。
公証人から、保証人になった場合のリスクの説明を受け、リスクを理解したうえで、保証に同意するかの確認がされます。

この手続を経ないでした保証契約は無効とされます。

ただし、この手続きは、事業に関与していない親戚や友人が安易に保証人になることがないようにと想定しているので、対象となる人は限られます。

次のような場合は除かれます。
1 主債務者が法人である場合
法人の理事,取締役,執行役や,議決権の過半数を有する株主等
2 主債務者が個人である場合
主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や、主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者



2020年4月27日月曜日

民法(債権法)が変わります 債権法改正・その1

2020年4月1日から、改正された民法(債権法)が施行されました。

「民法の一部を改正する法律」は2017年5月に成立しましたが、3年の準備期間を経て、2020年4月1日から施行されることとなりました。

債権法は明治29年に制定されましたが、その後、120年もの長い間、ほとんど見直されてきませんでした。

債権法は契約についての最も基本となるルールを定めています。
当然ですが、明治29年と現在では大きく時代も事情も異なっています。

社会経済の変化に対応するための大改正となっています。

また、裁判や取引の実務で実際には適用されていたルールがあります。
そうしたルールを債権法の条文でも明確にするという改正もされました。

民法(債権法)は契約についての基本となるもので、実はとても身近な法律です。
それが120年ぶりに変わったのですから、大きな改正であることが伝わると思います。

2020年4月1日から施行された改正法が、どのような点で変わったのか、何回かに分けて解説していきたいと思います。







2020年4月25日土曜日

養育費の取り立てはどう変わる? 民事執行法改正(その3・罰則)

2020年4月1日から施行された改正民事執行法では、債務者が財産開示に応じなかったり、虚偽を述べた場合の罰則が強化されました。

改正前は、30万円以下の過料に科せられるだけでした。

これでは制裁が弱く法が守られないという批判がありました。
実際、財産開示事件が非開示(不出頭や陳述拒絶等)となってしまう割合は40%を超えるようになっていました(平成27年)。

改正法は、不出頭などに対し、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰を課しています(改正法213条)

改正前は、「過料」で、刑事罰ではありませんでした。
改正法では、懲役や罰金という刑事罰が科せられるようになり、より強力な制裁となりました。

ペナルティを強化することで、財産隠しを許さないという姿勢を示した改正となっています。


2020年4月24日金曜日

養育費の取り立てはどう変わる? 民事執行法改正(その2・預貯金)

2020年4月1日から、改正された民事執行法が施行されます。

前回は「勤務先の情報が得られるようになった」ことについて書きました。

今回(その2)は、「預貯金の情報が得られるようになった」改正点について書きます。

元配偶者が、会社員ではなく、自営業者であった場合には、給与ではなく、預貯金に執行していくことが多いと思います。

改正前の民事執行法では、銀行の支店名まで特定することが必要でした。
取り立てる側の高いハードルとなっていました。

しかし、今回の改正により設けられた「第三者の情報提供手続」によって、
預貯金についての情報(支店名、口座番号、額)
について金融機関から情報提供を得ることが可能となりました。

支店名が分からない場合に有効な手続きです。

これまでは、支店名の特定ができないケースでは空振りに終わってしまうことも多かったのですが、今回の改正によって、支店名を特定できるようになりました。

情報提供を求める金融機関は、一つに限らず、2つ以上も可能です。
外国の銀行でも、日本に支店があり、預貯金の受け入れをしていれば可能です。

どの銀行に預けているかわからない場合にも有効な手続きとなるでしょう。

(強制執行をしても完全な弁済を受けられないことなどの疎明は必要です。)






2020年4月23日木曜日

養育費の取り立てはどう変わる? 民事執行法改正(その1・勤務先)

養育費を支払ってもらえずに困っている方に、参考にしてほしい情報です。

2020年4月1日から、改正された民事執行法が施行されます。

「調停で決まったのに、養育費を払ってくれない」
そうしたご相談は多くあります。

養育費について調停調書、判決、公正証書(執行認諾文言付き)で取り決めている場合、民事執行手続きによって、支払いが滞った養育費を取り立てることができます。

新しい民事執行法では、養育費の取り立てを可能にするための改正がいくつかなされました。(1回では書き切れないので何回かに分けてお書きする予定です。)

一つ目は、
元配偶者の勤務先についての情報を取得することができるようになりました。

「取り立てをしたいけれど、相手の勤務先が分からない」

今回の改正で新しく設けられた「第三者からの情報取得手続」が有効となります。

離婚後に元配偶者が職場を変えてしまい、どこで働いているのか分からなくなった場合に、新しい職場の名称や場所について照会することが可能となりました。

具体的には、市区町村や年金事務所に照会をして、元配偶者の勤務先についての情報を得ます。

「第三者からの情報取得手続」を利用して、新しい勤務先の情報が分かれば、給与を差し押さえることで養育費を取り立てることが可能となるでしょう。

(先に財産開示手続きが実施されていること等の要件があります。)


2020年4月22日水曜日

コロナ在宅 家庭問題深刻化

新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐために、家の中で過ごす時間が増えています。

外出制限の長期化で、DV被害や相談が増えているとの報告が、イギリス、フランスなどでは早い段階から相次いでなされました。

内閣府はDV相談窓口として、DV相談+(プラス)を設けました。

0120-279-889(つなぐ、はやく)です。
4月29日からは24時間つながります(29日までは午前9時から午後9時です)。

専門の相談員が対応しています。5月1日からは10か国語で対応可能だそうです。


逃げ場がない中で、一人で悩みを抱えていませんか。

家庭問題が深刻化する中、弁護士としてできることを考え、緊急事態宣言の期間中、離婚の相談を無料(初回、30分)にしました。

電話・スカイプでの相談をお受けしています。相談フォームで受け付けています


2020年4月21日火曜日

コロナ不況 養育費の減額について

新型コロナウィルス感染拡大による景気後退が問題となっています。

「元夫の収入が減った場合には、養育費は減らされてしまうのか」
「離婚の調停で養育費が定められたが、その時より収入が減って苦しい」

支払う側にも、受け取る側にも、生活に直結する問題です。

養育費減額調停は、調停や裁判などで定められた養育費の減額を求める調停です。
家庭裁判所に申し立てをします。

減額が認められる事情としては、
・支払い側の収入の減少、失業など
・支払う側の病気
・受け取る側の収入の増加
などがあります。

養育費減額調停を申し立てて、新しい養育費を定めるという手続きです。

受け取る側の同意がないのに、一方的に減額することは認められていません。

緊急事態宣言の期間中も申し立てはできます。郵送で申し立てをすることもできます。
(東京家庭裁判所のお知らせ「家事受付をご利用のみなさま」参照)



2020年4月20日月曜日

ハーグ条約 子の返還:調停の「合意」も変更可の判断

ハーグ条約の事案に関して、最高裁判所の新しい判断が出されました。

時事通信社の時事ドットコムは、次のように報じています(2020年4月17日)

国外に連れ去られた子の扱いを定めたハーグ条約に基づき、父親がいるロシアに子を返還する合意が調停で成立した後、事情の変化を理由に返還しないよう変更できるかが争われた許可抗告審の決定で、最高裁第1小法廷(池上政幸裁判長)は「変更できる」との初判断を示した。16日付。
ハーグ条約の国内手続きを定めた実施法は、子の返還を命じる「終局決定」が確定しても、事情の変化が生じた場合は変更できると規定。許可抗告審では、話し合いによる調停での合意も変更可能な「終局決定」に含まれるかが争点だった。
 小法廷は「調停が成立した場合でも、返還を維持することが子の利益の観点から不当となることはあり得る」と指摘した上で、「規定を類推適用し、変更できると解するのが相当だ」と判断。母親の申し立てを却下した二審東京高裁決定を破棄、審理を同高裁に差し戻した。
 決定によると、日本人の母親と子どもは2016年、ロシア人の父親の元を離れ日本に帰国。母親と父親は調停で子をロシアに返還することで合意したが、子が拒否した。」

ハーグ条約については、国内外で、裁判所の判断が注目されています。

外国の外交官と話す機会などの際も、ハーグ条約についての日本の裁判所の動きに関して質問されることが多いです。

外務省はハーグ条約についてアニメーション(ホワイトボードアニメーションなど)を用いて説明しています。







2020年4月19日日曜日

離婚届けを受理されたくないとき(不受理申出)

夫婦喧嘩の際に、売り言葉に買い言葉で、離婚届けに署名押印して相手に渡してしまったけれど、冷静になって考えると、離婚はしたくない…

「離婚届けを出されてしまったら、離婚するしかないのか?」

こうした相談は珍しくありません。

サインして渡してしまった離婚届けはなかなか取り返せず、不安でたまらなくなって相談にいらっしゃいます。

離婚届けの不受理申出という制度を知っていますか?

役所の戸籍係に行って、離婚届の不受理申出用紙に必要事項を記載し、署名押印して届出します。

不受理申出(不受理届)がなされた後は、相手方が離婚届けを提出しても、離婚(協議離婚)が成立することはありません。


不受理届と離婚届けのどちらが先かのタイミングが争われるときもあります。

不受理申出を本籍地に出しておいた方が、離婚届けが誤って受理されてしまうリスクは減らせますが、本籍地以外の役所でも届け出ができます。

「本籍地が住所地から遠く離れているけれど、相手方が今にも離婚届けを提出するかもしれない」
というような場合は、
スピード重視で、住まいから近い役所で不受理申出をする方がいいでしょう。

(どちらが先かが数時間差で争われた事案もありました。)






2020年4月18日土曜日

養育費・婚姻費用の算定表改訂

2019年12月23日に、養育費・婚姻費用の算定表が改訂されました。

およそ16年ぶりの改訂です。

旧算定表に対しては、標準とされる金額が低く、ひとり親世帯が生活していくことが困難であるとの批判がありました。

日弁連(日本弁護士連合会)は2012年に意見書を出して、2016年に提言を発表するなど、算定表を見直すための活動を行っていました。

そうした声を踏まえて、裁判所でも研究がなされ、今回の改訂となっています。

「改訂された算定表で何が変わったか?」

ほとんどのケースで養育費・婚姻費用が増額されることになりました。

ただし、増額の幅は、義務者(多くの場合元夫)の所得によって異なります。

具体的には、
高所得者の場合の増額の幅は比較的大きい
といえるでしょう。

私が担当したケースでも高額所得者の場合にはかなりの増額になったものがいくつかありました。
改訂の際に検討された問題意識を、具体的なケースの主張に盛り込んで議論していくことも有効になるでしょう。


子供の成長発達を保障するという視点が、ある程度は、盛り込まれた改訂だと思いますが、十分な水準かというと疑問です。

国際離婚を担当する際に、諸外国の養育費の水準を調査する機会も多いのですが、ヨーロッパやアメリカなどに比べると、日本の養育費は低いのが実情だと思います。

まだまだ検討されるべき問題が多い分野だと考えています。


2020年4月17日金曜日

愛宕国際法律事務所のブログを始めました

ブログを始めることにしました。今、日本では緊急事態宣言が出され、未曽有の事態となっています。外出を控えて家にいるために、ネットを見る機会が増えた方も多いと思います。
弁護士として気が付いたこと、お伝えできることを少しずつ書いていきます。