2020年5月28日木曜日

面会交流の事例検討(審判に対する抗告事件)その3

子供と離れて暮らす父親が、子供との面会交流を求めて面会交流の調停を申し立て、家庭裁判所で面会交流を認める審判を得ましたが、母親側が不服として抗告し、高等裁判所が決定をした事例(平成30年11月20日東京高等裁判所決定)の検討の3回目です。

今回は「立ち合い」が認められるかについての判断部分について検討します。

面会交流は普段は子供と離れて暮らす非監護親が子供と交流できる機会ですので、監護親の立ち合いを付けずに、いわゆる水入らずで実施されることが本来の形だと言えます。

しかし、父母の関係が悪く、特に、監護親が非監護親による連れ去りを心配している場合など、立ち合いをつけることを条件に面会交流が実施されているケースも少なくないかもしれません。

この裁判例でも、母親(抗告人)は連れ去りのおそれを主張し、立ち合いを求め、かつ、第三者機関による立ち合いがなされるべきだと主張しました。

この点、高等裁判所は、未成年者の年齢からすると,相手方と未成年者との面会交流を子の福祉に適うように実施していくためには,監護者である抗告人の協力が不可欠であるところ,抗告人は,相手方の対応に不信を抱き,面会交流を中断したり,平成30年1月18日以降は信頼関係が破壊されたなどとして,面会交流の実施を拒んだりしていることからすると,現段階においては,未成年者と相手方との面会交流が継続的に行われるようにすることが何より大切であり,そのためには,前述のとおり,抗告人が主張する相手方による未成年者の連れ去りの懸念についても十分な配慮をすることが必要である。」としました。

監護親が連れ去りの懸念を持っていることに対する配慮が必要だとしており、その理由は、面会交流が継続的に行われるようにすることが何よりも大切であるから、という判断です。

そして、監護親が抱く連れ去りの懸念への配慮として、それまでの面会交流の実施状況を踏まえ、当分の間は,抗告人の立会いの下で面会交流を実施することが相当であり,抗告人と相手方が,未成年者の父母として子の利益に十分に配慮して行動すべきことはいうまでもないところであり,このような態様による面会交流が子の福祉に反するものとはいえない。」として、立ち合いを認めました。

立ち合いを認めるものの、期間は「当分の間」であるとしています。

面会交流に対する抵抗感が強い監護親の協力を得ながら実施していくためには、当分の間は、立ち合いを認めつつも、継続的に実施できる環境を作ろうという考えのように思われます。
悩ましい判断だったことがうかがえます。

なお、第三者機関の利用については、「相手方が反対していることに加え,費用負担の問題が生じるところ,前記のとおり婚姻費用等の支払をめぐって面会交流が中断した経緯をも考慮すると,第三者機関の利用による面会交流は適切とはいえない。」とし、認めませんでした。





2020年5月25日月曜日

面会交流の事例検討(審判に対する抗告事件)その2

子供と離れて暮らす父親が、子供との面会交流を求めて面会交流の調停を申し立て、家庭裁判所で面会交流を認める審判を得ましたが、母親側が不服として抗告し、高等裁判所が決定をした事例(平成30年11月20日東京高等裁判所決定)の検討の2回目です。

前回は面会交流の意義や重要性についての判断部分を紹介しました。

面会交流が重要であるのは当然として、では、具体的に、当該ケースにおいて、どのように実施していくのかというところは、監護親と非監護親で意見が分かれることが多いものです。
この裁判例でも調停で折り合いがつかず、審判、抗告審へと進んでいます。

今回は、頻度や時間についての高等裁判所の判断部分を紹介します。

頻度:月に1回
時間:各回5時間
との判断がなされました。

このケースでは、それまで月に1回、2時間程度で(数回)実施されていました。

この点、抗告審は、「概ね月に1回、2時間程度の頻度で数回行われた面会交流において、対未成年者との関係において問題が見受けられず、良好に実施されたことからすると、月に1回の面会交流とするが、未成年者がより自由に相手方と面会できるよう、1回あたりの時間を長くすることが相当である。」
として、面会交流の実績にかんがみて、1回あたりの時間を長くすることが相当との判断なされました。

また、場所については、それまでは妻側の代理人弁護士の事務所での実施でしたが、
「面会交流の際に、未成年者が非監護親との交流を楽しみ、のびのびと過ごすためには、実施場所について限定することは相当ではない。」
と判断しました。

ケースによって事情は異なるでしょうし、また、月に1回5時間の交流が十分といえるかは議論があるところでしょう。
とはいえ、子供がより自由に面会できるように、交流を楽しみ、のびのびと過ごせるようにと、子供の利益を優先する考えが示されており、それが重要であることは確かです。





2020年5月20日水曜日

面会交流の事例検討(審判に対する抗告事件)その1

面会交流は、離れていても子供に会いたい親の願いの切実さと、面会交流への不安を抱える親の対立などがあり、困難事例が多い分野です。裁判例も多くあります。

子供と離れて暮らす父親が、子供との面会交流を求めて面会交流の調停を申し立て、家庭裁判所で面会交流を認める審判を得ましたが、母親側が不服として抗告し、高等裁判所が決定をした事例(平成30年11月20日東京高等裁判所決定)を検討します。

いろいろなファクターについて審理検討されているので、何回かに分けて解説します。

まずは、面会交流の意義や重要性についての判断部分です。

父母が別居しても,子にとっては親であることには変わりはなく、非監護親からの愛情も感じられることが子の健全な成長のために重要であり、非監護親と子との面会交流が実現することにより、別居等による子の喪失感等が軽減されることが期待できるから、子の福祉に反しない限り、非監護親と子との面会交流は認められるべきである。」

「面会交流の可否については、非監護親と子との関係、子の心身の状況、子の意向及び心情、監護親と非監護親との関係その他子をめぐる一切の事情を考慮した上で、子の利益を最も優先して判断すべきである」


改正後の民法766条(平成24年4月1日施行)は、父母が協議上の離婚をするときに協議で定める「子の監護について必要な事項」の具体例として「父又は母と子との面会及びその他の交流」(面会交流)及び「子の監護に要する費用の分担」(養育費の分担)を明示し、子の監護について必要な事項を定めるに当たっては子の利益を最も優先して考慮しなければならないと明記しました。


面会交流についての法務省のリーフレットをご紹介します。(http://www.moj.go.jp/content/000096597.pdf
面会交流の意義や子どものための面会交流の実施について書かれています。




2020年5月15日金曜日

財産分与・オーバーローンの自宅不動産 その4

「離婚問題・破綻後に自宅不動産に住み続けられるのか」でご紹介した東京地裁平成24年12月27日判決(判例時報2179号78頁)を参考にした、オーバーローンの自宅不動産についての検討の4回目です。

前回まで、オーバーローンの不動産は、財産分与では清算の対象とならなくても、共有関係で清算する方法があることを紹介しました。
妻側の貢献を評価する方法についての解説をしました。

今回は、夫側の権利はどのように補償されるかについて書きます。


自宅不動産は夫婦の共有であると認められましたが、別居となり、不動産には妻が住み続けている場合、夫が使用できていない点はどう解決されるのでしょうか。

裁判例は、本件建物のうち被告持分(3分の1.注:妻の持ち分)を超える持分3分の2(注:夫の持ち分)の部分については、権原なくして占有していることが明らかであり、これは原告(注:夫)持分権を侵害する不法行為にあたる」とに判断しました。

そして、夫は妻に対して、使用料相当損害金の支払いを求めることができるとしました。(持ち分の割合については事例ごとに判断になります。)

妻は、自宅不動産に住み続けることができる代わりに、夫に対して、持ち分を超える分の使用料相当額の損害金を支払わなければならないという判断です。






2020年5月12日火曜日

財産分与・オーバーローンの自宅不動産 その3

「離婚問題・破綻後に自宅不動産に住み続けられるのか」でご紹介した東京地裁平成24年12月27日判決(判例時報2179号78頁)を参考にした、オーバーローンの自宅不動産についての検討の3回目です。

裁判例は、オーバーローンのために「財産分与」では清算の対象とされない不動産についても、「共有関係」の審理において清算を図ることができるとしました。

今回は、具体的な清算方法について解説します。

裁判例(自宅不動産の所有名義は夫、妻が居住のケース)は、妻の固有財産がいくら不動産の支払いに充てられたのかについて、次のように認定しました。

・頭金
妻が特有財産(婚姻前の預金)から拠出した住宅ローンの頭金
・同居中
同居中の住宅ローン返済総額の半分
・別居後
夫の住宅ローン支払い分のうち妻への婚姻費用の支払い分とみなすことができる額

別居後の支払い分について補足すると、
例えば、本来の婚姻費用は月額20万円のはずであるが、夫が住宅ローンを支払い続け、妻が自宅に住み続けていることを考えて、婚姻費用が月額10万円とされていた場合には、月10万円が妻に婚姻費用として支払われる代わりに住宅ローンの支払いに充てられたとみることができると考えたことになります。

そして、不動産の評価額に照らして、妻の持ち分を認定しました。

妻の出捐が共有関係において評価されたといえます。

オーバーローンの不動産は、財産分与では清算の対象とならなくても、共有関係で清算するという方法があるということです。

また、不動産には妻が住み続け、夫は使用できていない点については、どうやって夫の補償を図るかについて、検討されました。
それは次回に解説します。






2020年5月11日月曜日

財産分与・オーバーローンの自宅不動産 その2

「離婚問題・破綻後に自宅不動産に住み続けられるのか」でご紹介した東京地裁平成24年12月27日判決(判例時報2179号78頁)を参考にした、オーバーローンの自宅不動産についての検討の2回目です。

この裁判例の注目されるところは、自宅不動産がオーバーローンであったために、離婚の際には財産分与の対象とされず、清算がされないままになってしまっている不公平な事態に注目し、その解決を図ったことです。

裁判例のケースでは、自宅不動産を購入する際に、妻も頭金の一部を出捐していましたし、住宅ローンの支払いについて妻の貢献がありました。

しかし、オーバーローンであったため、財産分与の手続きにおいては清算の対象とはされませんでした。

この点、裁判例は、
「その結果、夫婦共有財産と判断された不動産について清算が未了のままとなる事態が生じ得るが、この場合、不動産の購入にあたって自己の特有財産から出捐をした当事者は、かかる出捐をした金員につき、離婚訴訟においては、その清算につき判断がなされないまま財産分与額を定められてしまい、他方で、たまたま当該不動産の登記名義を有していた相手方当事者は、出捐者の損失のもとで不動産の財産的価値のすべてを保有し続けることができるという極めて不公平な事態を招来することになる。」
との価値判断を示しました。

そして、不公平な事態を解消するため、
夫婦の一方がその特有財産から不動産売買代金を支出したような場合には、当該不動産が財産分与の計算においてオーバーローン又は残余価値なしと評価され、財産分与の対象財産から外されたとしても、離婚訴訟を担当した裁判所が特有財産から支出された金員につき何ら審理判断をしていない以上、離婚の際の財産分与とは別に、当該不動産の共有関係について審理判断がされるべきである。」
として、財産分与とは別に、共有関係について審理することで解決を図るべきとの考えを示しました。

オーバーローンのために「財産分与」では清算の対象とされない不動産についても、「共有関係」の審理において清算を図る方法があるということです。

次回は、具体的にどのように清算が図られたのかを解説します。






2020年5月8日金曜日

財産分与・オーバーローンの自宅不動産 その1

「離婚問題・破綻後に自宅不動産に住み続けられるのか」でご紹介した東京地裁平成24年12月27日判決(判例時報2179号78頁)を参考に、オーバーローンの自宅不動産の財産分与について、何回かに分けて考えたいと思います。

まず、オーバーローンの不動産は財産分与の対象とはならないとされています。

この点、東京地判平成24年12月27日も、
住宅ローン残高が不動産価値を上回るいわゆるオーバーローンの不動産や、不動産の価値と住宅ローン残高がほぼ同程度であるとして残余価値がないと評価された不動産は、積極財産として金銭評価されることがないため、夫婦間の離婚訴訟の財産分与の手続においては、清算の対象とはならない。」
としています。

オーバーローンの不動産は、積極財産として金銭評価されることがないため、財産分与において、清算の対象とはなりません。

住宅ローンを組んで夫婦で住んできた自宅を、離婚にあたってどうするかは多くのケースで問題となります。
財産分与の対象となるか否かは、その不動産がオーバーローンであるかどうかによることになります。



2020年5月7日木曜日

離婚問題・破綻後に自宅不動産に住み続けられるのか

夫婦の関係が悪くなり、一方が家を出ていき別居となったとします。残された方は、そのまま自宅に住み続けることができるのか不安に思うことでしょう。

例えば、Aさんが、配偶者であるBさんと子供を残して家を出ていったとして、自宅(婚姻期間中に住宅ローンを組んで購入)がAさん名義の場合、Bさんと子供は家を出ていかなければならないのでしょうか。

この点、自宅不動産が婚姻期間中に住宅ローンを組んで購入されたものであれば、それは夫婦共有財産にあたります。
夫婦の双方に不動産を占有する権原があり、一方が他方に対し明渡しを求めることは困難です。

そのため、上述の例では、Aさんからの明け渡しは困難です。
自宅不動産の名義がAさんとされていても、同様です。
Bさんと子供は自宅に住み続けることができます。

裁判例としては、東京地判平成24年12月27日が参考になります。
離婚後の事例ですが、自宅が夫婦共有財産であることを理由として明け渡しを認めませんでした。

(なお、この裁判例は、オーバーローンの不動産の財産分与についても非常に参考となる判断をしています。)



2020年5月4日月曜日

民法(債権法)が変わります その6・賃貸借

2020年4月1日から改正された民法(債権法)が施行されています。
今回は、賃貸借に関する改正についてお書きします。

賃貸借は、アパートや店舗の貸し借りなど、多くの人の生活に密着した契約ですが、改正前の民法には、敷金や原状回復などについての基本的なルールの規定がありませんでした。
改正法では、次のようなルールが条文に明記されました。

1 敷金・原状回復
敷金から差し引くことができる費用の範囲を定めました。
賃借人に帰責事由のない損傷や通常使用による損傷については、賃借人の原状回復義務の範囲外とされました。

具体的には、
・通常使用による損耗
・経年劣化
・賃借人に責任のない損傷
の補修費用を敷金から差し引くことはできません。

クロスの変色や画びょうの穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)などは、通常損耗・経年劣化の例とされます。
一方で、ペットによる柱の傷やタバコのヤニ・臭いなどは、通常損耗・経年劣化にあたらない例とされ、原状回復が必要となります。
国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」参照)

2 修繕
賃貸人による修繕が新たに定められました(民法607条の2)。

建物の修繕が必要な場合、賃貸人に通知しても相当の期間内に必要な修繕をしてもらえないときには、賃貸人が自分で修繕ができます。
修繕費用を賃貸人に請求することになります。

3 一部使用不能等による賃料減額
建物の一部が賃借人の責任によらずに一部使用不能となった場合、その割合に応じて、賃料は当然に減額になるとされました(民法611条)。

改正前は、減額を請求できるとされていましたが、改正後は、当然に減額となるとされました。




2020年5月1日金曜日

民法(債権法)が変わります その5・消滅時効

2020年4月1日から改正された民法(債権法)が施行されています。
今回は消滅時効の期間の改正についてお書きします。

これは身の回りの債務にも大きく関係する改正だといえます。

改正前の民法は、
・消滅時効の期間は原則として10年としつつ、
・職業別の短期の消滅時効期間(飲食代金は1年、医師の診療報酬は3年など)
を設けていました。

改正後の民法では、
・債権者が権利を行使することができることを知った時か5年間行使しないとき
・権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
に時効によって消滅すると定められました(民法166条1項)。

そして、職業別の短期消滅時効の特例は廃止されました。

法務省の説明では、消滅時効期間は原則として「5年」としたうえで、
債権者自身が自分が権利を行使することができることを知らないような債権は、権利を行使することができる時から「10年」とされています。

例えば、飲食代金については、
改正前は1年で時効によって消滅しましたが、
改正後は、原則5年で時効(ケースによっては最長10年)によって消滅すると変わりました。
飲食店にとっては、支払いを請求できる期間が延びたことになります。